少し大きくなった子どもに
子どもが小さいころは絵本の読み聞かせを毎晩のようにしていたのに、大きくなってからは遠ざかってしまった、という声が聞かれます。また、もう大きくなって字も読めるのだから絵本を読んであげるのは本人のためにならない、とお考えのご家庭もあるかもしれません。けれども、文字をおぼえたての子どもが自分だけの力で読書を楽しむのはまだまだむずかしいものです。また、親子で1冊の本を楽しむことはとても良いことだと考えます。
たとえば、昔話集や短めの物語を一緒に読んでみてはいかがでしょうか。寝る前のひととき、数ページずつ読んでいって1冊を読み終える頃にはおとなも子どもも満足感が得られるでしょう。
物語があまり好きでないお子さんもいます。そんなときは子どもが好きなジャンルの本をいっしょに読んでみるのもいいかもしれません。昆虫や動物の図鑑、鉄道や自動車の写真集、星座や宇宙の本など、子ども向けでも内容は充実していてわかりやすく書かれているのでおとなが読んでも役に立ちます。
親子で熱中
わたしの家族のことをお話ししますが、子どもたちが絵本に興味を示さなくなったころ、親子でいっしょに読んで熱中した本があります。
そのうちの1冊がスズキコージの『大千世界の生き物たち』です。著者は絵本作家として有名ですが、この本は児童文学雑誌に連載されたエッセイをまとめたものです。彼にしか見えない空想上の生き物を見開き2ページに絵と文章で説明しています。
語り口は子ども向けとはいいがたいのですが、「本と本のわずかなすきまに住んでいるスキママン」とかふだん使っていないふとんにひそむ「フトノトフ」、小学校の地下のほらあなに住んでいる子だくさんの「マザーパチコ」など、ネーミングセンスばつぐんで、独特の絵とあいまって、子どもたちの心をとりこにしてしまいました。踏切をみると、「フミキリンだ」と喜んだりして、大千世界ワールドをみなで楽しんだものです。
長い物語も
もう1冊はトールキンの『ホビットの冒険』です。映画「ロードオブザリング」を見て興奮した子どもたちに、「この映画の前のお話あるけどな……」と夫が言ったため、『ホビットの冒険』を読むことになりました。
映画「ロードオブザリング」の原作の『指輪物語』は三部作で大変長いのですが、『ホビットの冒険』は1冊本、なんとかなると毎晩数ページずつ夫が読み始めました。途中であきらめるかなと様子をうかがっていたら、自分もお話の面白さに引き込まれてしまい、ほかの用事をしていてもついつい聞いてしまいます。
あるとき、夫が仕事で遅くなったので、子どもたちに頼まれて代わりに読んでみたところ、「やっぱりとうさんのほうがいい」と言われました。アニメの声優が交代して不評だったようなものでしょうか。夫はそれを聞いて得意げに毎晩早く帰ってきては読み続けました。
一度読んで知っている物語でも、声に出して読まれると意外な言葉づかいがあったり、情景がはっきりとうかんできたりして新しい発見に驚いたりしました。
数か月たって物語もクライマックスにさしかかり、あともう少しで終わり、というところで夫は睡魔に勝てず「続きは明日」と言って寝てしまいました。子どもたちはがまんしきれず、とうとう自分たちでその日のうちに最後まで読んでしまいました。
それから子どもたちは自分でもどんどん本を読むようになった……というわけにはいきませんでしたが、物語の面白さに大人も子どもも満足し、1冊の本をいっしょに楽しめたということが忘れがたい思い出となっています。
読書の手助けを
子どもがひとりで本や読書の楽しむようになるまでには、いろんな手助けが必要です。子どもが少し大きくなっても、親子いっしょに本を楽しんでもらえばと思います。
本にはさまざまなものがあり、それぞれの本にちがう魅力があります。親子で楽しむ本を探しに、ぜひ図書館をご利用ください。
・『大千世界の生き物たち』架空社
・『ホビットの冒険』J.R.R.トールキン/作 瀬田貞二/訳岩波書店
・『指輪物語』J.R.R.トールキン/作 瀬田貞二/訳 評論社